ごあいさつ
学部長メッセージ 多文化社会学部長 野上 建紀


未来の多文化社会に向けての知的航海
未来につなぐ人文学の<知>と社会科学の<理>
混迷か、融合か、衝突か、摩擦か、許容か、あるいは包摂か、私たちは「多文化社会」の未来に何を見るのでしょう。新型コロナウイルスの脅威をおおよそ全人類で共有し、地球の一体化を実感した後、世界の地域で戦争や紛争がやむことなく続いています。地球の一体化とは裏腹に世界は分断され、むしろ混迷をより深めていると言ってもいいでしょう。
人間の文化は多様であるゆえに豊かであり、それぞれの文化が融合し、さらに新たな展開を迎えていく。そうやって我々は豊かな文明を築いてきました。一方で異なる文化や文明が接触することで生じる摩擦熱を私たちは制御できていません。それは国家間レベルだけではなく、身近な社会のレベルでも起きています。豊かで理想的な多文化社会を築くには私たちはまだまだ未熟であると言わざるをえません。そのため、私たちはよりよく人間を学ばなくてはならないのです。
「人間は考える葦である」フランスの思想家パスカルの言葉です。自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎないが、しかしそれは考える葦である。思考の大切さを説いたものと言われます。思考こそが人間の本質ということでしょう。
しかし、すでにもう人間は弱い「葦」ではありません。「人新世」という時代区分が提唱されています。地質時代の中に「人類の時代」を設定しようという考えです。もはや人間は核兵器を持ち出すまでもなく地球の環境そのものに多大な影響を与える強い存在となっています。
その強さを正しく制御するために、科学技術の進歩以上に高度な思考を続けなければなりません。しかし、思考する役割においても、今や人間とAI(人工知能)の境界がとても曖昧になってきています。このままだと境界を越えて本質も侵食され、人間は思考の歩みを減速させてしまうかもしれません。人間とは何か、社会の役割は何か、改めて強く問われています。
多文化社会学部では、人間とその社会を知るために人文学の知と社会科学の理を学びます。国際公共政策、社会動態、共生文化、言語コミュニケーションの4コースに加え、オランダに特化したコースを持ち、さまざまな切り口と道すじで世界を学んでいきます。
その学び方はさまざまです。ひたすら文献を読み込むこともあれば、フィールドの中に身を置くこともあります。あるいは徹底的に議論することも必要でしょう。そうした学びの作法と知識を身にまとい、英語を主とした言語という最も効率的な相互理解のツールを携えて、未来のよりよき多文化社会に向けて、知的な航海を始めるのです。
よりよく人間を理解し、多様性に対する包容力をもった人文系グローバル人材の輩出、それがこの国で唯一、多文化社会学の名前を冠したこの学部の使命と考えています。ともに学び、思考を深めて未来のよりよき多文化社会を築きましょう。