重点研究課題

    プロジェクトについて

    「リスク社会」を生き続けるための人文社会科学の超域的研究拠点形成

    研究期間:平成29年度~平成33年度
    研究代表者:滝澤克彦
     本プロジェクトは、長崎大学第三期中期目標・中期計画に基づき、中期期間中重点的に支援を行うものとして選定されたものです。
    プロジェクト概要:
     現代世界におけるリスクは極めて多くの要因が複雑に絡み合い、ますます予見不可能なものとなっている。様々なレベルの社会的カタストロフィが現実味をおびてくるなかで、人類が21世紀を生き残り、100年後も人々が幸福に生きられる社会を実現するために、人文社会科学はどのような貢献ができるだろうか。現代の「リスク社会」においては、「幸福な生活」自体が科学技術を前提として成り立っており、それを脅かすリスクの回避が科学の使命となるため、哲学・倫理・宗教的命題(人がどのように生まれ、生き、死んでいくべきか)は必然的に科学のなかに組み込まれている。つまり、そこでは自然科学的要因と人文社会科学的要因が密接に絡み合っており、その対処には文理の枠を越えた学際的連携が必要なはずである。本研究は、自然科学との連携も視野に入れながら、「リスク社会」を捉えるための人文社会科学の超域的パラダイムを構築することを目的とする。

    プロジェクトの目的

     かつて社会学者のU・ベックが指摘したように、現代世界におけるリスクは極めて多くの要因が複雑に絡み合い、ますます予見不可能なものとなっている。様々なレベルの社会的カタストロフィが現実味をおびてくるなかで、人類が21世紀を生き残り、100年後も人々が幸福に生きられる社会を実現するために、人文社会科学はどのような貢献ができるだろうか。
     ベックによれば、近代における産業化の帰結として到来したモダニティは、「リスク社会」として特徴づけられるという。そこでは、モダニティの持続的な発展および産業社会の存続可能性自体が、その前提としてリスクを内包している。
     このようなリスクは、多くの場合、自然科学的な観点から評価され、解決方法が検討されることが多い。しかし、実際には科学的な営為自体が価値・倫理・信仰と分かちがたく結びついている。なぜなら、「幸福な生活」自体が科学技術を前提として成り立っており、それを脅かすリスクの回避が科学的使命となるため、「幸福とは何か」という哲学・倫理・宗教的命題自体が必然的に科学のなかに組み込まれるからである。また、科学的な安全も、それを支える社会的システム自体に対する「信仰」が前提となるが、そのような前提を脅かす社会的要因(捏造や隠匿、悪用の可能性など)は、現実に存在する。
     このように、現代世界特有のリスクは、自然科学的要因と人文社会科学的要因が密接に絡み合っており、その対処には文理の枠を越えた学際的連携が必要なはずである。しかしながら、文理融合以前に人文社会科学の内部においてさえ、そのような連携の枠組みはいまだ存在していないのが実情である。それに対して、本研究は、自然科学との連携も視野に入れながら、「リスク社会」を捉えるための人文社会科学の超域的パラダイムを構築することを目的とする。

    中期期間中に取り組む具体的研究課題

     中期期間中には、以下の7つの具体的研究課題を設定し、超域的な連携のための新たな方法論を構築する。
     期間の前半には、当該課題に取り組む際に、特定の専門分野が有効性を発揮しうる範囲(射程)と限界とを明らかにすることに力点を置く。各分野の限界を明らかにすることによって、特定の分野における観測的ノイズを他の分野の専門性へと繋げていくことの必要性と見通しを具体化、明確化する。
     期間の後半には、特定の専門分野と他分野との連携に力点を移し、特定のフィールドで学際的共同調査を実施することで、多層的な要因が絡み合うなかで現実化しうる複合的リスクについての実証的な分析を行い、複合的リスクに対する超域的な分析枠組みを確立する。

    I.グローバルな人の移動に起因する複合的リスクの超域的分析枠組みの構築
     グローバルな人の移動は、グローバル化する世界の前提条件となっており、今日の複合的リスクに直結する最重要な要因の一つである。本課題については、主に歴史学および社会学の観点から、特定の歴史認識やアイデンティティをもつ人々がグローバルに移動し交錯するなかで生じるリスクを分析する。

    II.民族主義および排外主義に起因する複合的リスクの超域的分析枠組みの構築
     民族主義は社会統合や集団の持続性と表裏一体の関係にあるが、一方で多文化状況において過度に活性化する傾向があり、排外主義の形をとって対立や紛争、差別や虐待などを引き起こす潜在的リスク要因ともなっている。本課題については、主に社会学的観点から、過剰な民族主義が排外主義として社会的に表出するメカニズムを分析する。

    III.宗教的信念に起因する複合的リスクの超域的分析枠組みの構築
     宗教的信念は、国家や民族を越えた連帯を生み出すと同時に、各地で新たな対立の火種となるような両義的性格をもっている。宗教的信念が排外主義や差別と接触して過激化し、テロリズムを含めた様々な暴力の形で現実化することは、我々が日々目にしている通りである。本課題については、主に宗教学的観点から宗教的信念が社会的連帯と対立に及ぼす影響について分析する。

    IV.経済格差に起因する複合的リスクの超域的分析枠組みの構築
     グローバル化は地球規模での経済的結合を促進してきたが、それにともなう新たな形の経済格差を生み出してきた。貧困はそれ自体が個人および集団生活の存続に対するリスク要因であるが、教育格差や差別/虐待などとも深く関連している。本課題については、主に経済学的観点から、リスクに対する態度(リスク選好)と経済格差の相互的関係を分析するとともに、災害や教育格差、宗教的信念などと結合して派生する複合的リスクについて分析する。

    V.教育格差に起因する複合的リスクの超域的分析枠組みの構築
     政治・経済的要因にもとづく教育格差は、絶対的格差の再生産や紛争/テロリズムと密接に結びついており、現代世界のリスクの文化的側面を考察する上で重要な位置を占めている。また、教育格差はそれ自体に差別や虐待といった深刻な問題を内包している。本課題については、主に比較教育学的観点から、多文化社会における教育格差と、そこに内在する差別/虐待といった問題の生成について分析する。

    VI.災害後の複合的リスクの超域的分析枠組みの構築
     自然および人為災害は、様々なレベルの社会的リスクを顕在化させる直接的なきっかけとなると同時に、災害後の対応はそれ自体が様々な領域への派生的リスク要因をはらんでいる。本課題については、主に社会学的観点から、災害によって顕在化する社会の脆弱性および災害後の社会の存続可能性にかかわるレジリエンス(回復力)のメカニズムについて分析する。

    VII.戦後/体制転換期の統治不全に起因する複合的リスクの超域的分析枠組みの構築
     戦争/紛争後や体制転換期における統治機構の脆弱性が、社会そのものの存続に深く関与していることは、イラクやシリアの現状から明らかであるばかりではなく、沖縄の例などから長期的かつ潜在的な問題としても想定される。本課題については、主に比較政治学的観点から、社会的擾乱後のリスク管理のあり方をめぐって戦後統治や体制転換期の事例をもとに分析する。

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